2011年5月1日日曜日

リスク管理とは何か

今回の原発事故で大きく問題になるのが放射線被ばくへの不安、恐怖である。確かに放射線は目に見えず、どの程度の放射線を浴びているのかガイガーカウンターがなければわからないというだけに、不安や恐怖が増幅されるのは仕方がないだろう。

しかし、昨日のブログ投稿でも述べたが、放射線はすべて悪ではない。自然界にはすでに放射線が存在し、宇宙飛行士などは毎日1ミリシーベルトの被曝をしている。4ヶ月間宇宙ステーションに滞在した若田さんは90ミリシーベルト、これから6ヶ月間滞在する古川さんは180ミリシーベルトの被曝がすでに予定されている。

とはいえ、これだけの放射線を浴びても、すぐに健康に被害がでるわけではない。100ミリシーベルトの放射線を浴びても、がんになる確率は0.5%しか上がらず、1000ミリシーベルト=1シーベルトでも5%増えるだけである。

これだけ聞くと「やっぱり危ないじゃないか」と思う人もいるかもしれない。しかし、すでに喫煙によるがんの発生確率は吸わない人の確率(60%)よりもはるかに低い。この点について、産経新聞の図がわかりやすいので転載しておく。http://sankei.jp.msn.com/images/news/110501/dst11050107010003-p1.jpg


ようするに、我々は放射線のリスクよりもはるかにリスクの多い社会に住んでおり、いくつかの場合(たとえば喫煙)、自ら進んでそのリスクを取っている。もちろん、喫煙は自分で選んだ結果であり、そのためにがんを発症しても、それは自己責任であるが、原発の事故は自分の責任ではないので、同じように語ることは難しい。しかし、それでも原子力発電を容認し、原発で作った電気を使っている以上、まったく責任がないともいえない。

少なくとも、この図から言えることは、放射線のリスクは段階的であり、放射線が「ある・ない」という二元論ではない、ということだ。どのくらいの放射線を浴びれば、どのくらいのリスクが上がるのか、ということを示しているということは、放射線の量が問題であり、また、そのリスクの増加を受け入れるかどうか、ということになる。

たとえば、原発が絶対に許せず、少しの放射線の増加も受け入れられず、原発を使う電気も使いたくない、というのであれば、原発を持たない沖縄電力管内に引っ越すという選択をするか、何らかの運動をして原発をなくすという努力をすることもできよう。

しかし、すでに日本はさまざまな理由から原発を容認し、その開発と利用を進めてきた。それを知ってか知らずかは別として受け入れてきた多くの人は、そのリスクと向き合う必要がある。現在の福島原発の事故によって放出されている放射線の量は致命的な量ではない。かといって、自然界に存在する放射線の量よりは多い。そういう「グレーゾーン」の中で、放射線の線量が増えたら、どのくらい健康リスクが高まるか、ということを考えて行動するしかない。

個人的な話をすれば、私は喫煙者であり、かつ医者には「肥満気味と言われている身なので、100ミリシーベルトや200ミリシーベルトという数字にはあまり驚かない。また、飛行機に乗れば、東京-ニューヨーク間の片道フライトで200マイクロシーベルトの被曝をする。私は年に10回ほど海外出張があるため、普通の人より2ミリシーベルトは多く被曝しているが、それはたばこを多少減らせば関係なくなる程度の被曝量でしかない。

いずれにしても、大事なことは、リスクを「ある・ない」という二分法で考えることや、目に見えないからといって、放射線と聞いただけで恐怖や不安に陥ることを避ける、ということである。放射線に限らず、あらゆるリスクは「確率」で決まってくる。正しいデータを踏まえて、そのデータが何を意味しているかを理解し、そこから自分が負っているリスクを計算し、自らの行動を決める。それが現代社会で生きる人間に課せられた義務というか宿命なのだ。そこから逃げてしまうと、非科学的なヒステリーに陥り、不必要な不安と恐怖に身を削ることになるだけとなり、現代社会で生きることがしんどくなってしまう。なので、面倒であっても、リスクを「確率」で計算し、それを考えながら、正しくリスク管理をしていくことが重要なのである。

そのリスク管理とは具体的にはどういうものか。一つは上述したように、正しい知識と情報を踏まえて、状況を判断することが大事である。次に、その確率を自分にとって受け入れられるものかどうか、判断する必要がある。私の場合、100ミリシーベルトや200ミリシーベルトという数字は、自分ががんになる確率をそれほど上げない(というか、すでに猛烈に上げているので、この際大きな差を生まない)と判断し、あまり気にしないことにしている。しかし、気になるレベルのリスクの高まりと判断したら、リスクを軽減するための行動をとるだろう。つまり、放射線量の少ない場所に移住するといったことである。そうして自分のリスク管理をしていくこととなる。

また、リスク管理を考える際、決してやってはいけないことは、リスクがゼロになる、ということを期待することだ。どんな場合でもリスクは存在する。赤信号で停止していたからといって、信号無視をしたほかの車が突っ込んでくる可能性もある。つまり、そこにリスクが存在する限り、あらゆることが「想定内」でなければならない。さまざまな「悪いこと」を想定し、それによって発生する「悪い結果」を想定しながら、それに向かって対処を考えておく必要がある。

しばしば、そこで問題になるのが、リスクを「ゼロ」にするために堤防を高くしたり、建物を頑丈にするといった、リスク対策である。これは大きな間違いだと考えているが、それはまた別の機会に。

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