2011年5月26日木曜日

吉田所長とジャック・バウアー

普段は一日一本だけブログに投稿するのですが、今日はもうひとつ気になる話題があるので、こちらは少し余談気味に書いてみたいと思います。

実は、あまり表に出して言っていることではないのですが、私はアメリカのドラマ『24』という番組の日本語版制作スタッフとして翻訳監修を担当していました。監修なので翻訳家さんの原稿をチェックするという仕事で、大したことはしていないのですが、何にせよアメリカで放送してすぐの素材を見ることができるという役得にひかれてシーズン1からラストシーズンまで翻訳監修をやらせてもらいました。

『24』についてはご存知の方も多いかと思いますが、アメリカのCTU(Counter Terrorism Unit:テロ対策ユニット)という架空の組織に属しているジャック・バウアーというエージェントが主人公のドラマで、1時間番組で1時間の出来事を描くというリアルタイム・ドラマです。24回もののシリーズなので、24時間分、つまり、テロが起こる、ないしは計画されてから24時間で解決するというドラマです。ドラマの作りもしっかりしており、ハリウッド映画顔負けの予算がかかっていて、エンターテイメントとしては優れたドラマです。

この『24』の主人公であるジャック・バウアー(キーファー・サザーランドが演じている)の特徴は(1)上司の言うことを聞かない(時には大統領の命令ですら、おかしいと思えば無視する)、(2)国家のために自分をささげる、(3)必ず批判や懲罰の対象となるがそれを恐れない、(4)与えられた条件はかなり悲惨、(5)シーズンに1度は死にかける、(6)最後はなんだかんだ言って問題を解決し、アメリカないしは世界を救う、というところだと思います。

シーズン1からラストシーズンまで、延々と『24』に付き合ったので、かなりジャック・バウアーの行動様式や考え方(キャラクターとしての設定という意味ですが)は馴染んでいますが、今回の福島原発の事故の現場でがんばっている吉田所長の置かれている立場とジャック・バウアーとの類似性が高いということに気がつきました。

すでに先ほどのブログでも書きましたが、東電幹部が官邸の「空気」を読んで、海水注入を控えるように決定したにも関わらず、海水注入を継続する必要を判断し、独断でそれを継続し、結果的に東電から処分を受けるということになったあたりは、ジャック・バウアーの特徴である(1)上司の言うことを聞かない、(2)自分をささげる、(3)批判や懲罰を恐れない、(4)与えられた条件は悲惨という四つの項目に当てはまり、幸いなことに(5)の死にかけるというのは避けてほしいと思いますが、現場が現場なだけに、ちょっと心配で、(6)の問題解決を導いてくれることは、ちょっと難しいところですが、ぜひ期待したいところです。

ちょっと話はずれますが、現在、小惑星イトカワから帰還した「はやぶさ」をめぐる映画が3本も同時に作成されています。確かに「はやぶさ」は感動的なストーリーですが、さすがに3本も映画にすることはないだろう・・・、と思います。むしろ、東電の吉田所長こそ『24』のジャック・バウアー並みの主役級の活躍をしているわけで、彼のことこそ映画にすべきだろうと思います。

いずれにしても、『24』のように都合よく問題が解決してくれるとは思いますが、こういう時にはジャック・バウアーのようなヒーローが必要なのだろうと思います。といっても、現場の判断が常に正しいとは思いませんし(『踊る大捜査線シリーズ』も『24』的ですね)、きちんと責任を取るべきなのは政治家であり、東電幹部ではありますが、アホな上司や政治家に責任をとるという自覚と覚悟がない以上、ヒーロー待望論になってしまうのも仕方がないでしょうね。

ちなみに『24』は9.11同時多発テロの前にシーズン1の放送が始まったという点で、同時代的に面白かったのですが、興味深かったのは、イラク戦争開戦前夜のアメリカ国内で放送された『24』の番宣CMで、「In the time like this, we need some one like him」というコピーとともにキーファー・サザーランド演じるジャック・バウアーが炎をくぐって歩いてくるシーンがあったことで、このCMをたまたま出張中に見て大変感動した記憶があります。『24』はテロリストを拷問したり、かなり法と規範を無視するといった、眉をしかめるところも多く、批判も多くありますが、ブッシュJr.政権時代のアメリカの空気を色濃く反映したドラマだったこともあり、かなり多くの人から支持されていたのではないかと思います。

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