2011年6月7日火曜日

補論:20ミリシーベルトは高すぎるか?

以前、ブログ(「年間1ミリシーベルト」で安心できるのか?)で以下のようなことを書いたのだが、ちょっと気になったので、もう少し正確に議論をしておきたく、ここで若干の補完をしたい。

確かに、子供の放射線被曝に関しては、その影響がどのように出るのかということは明白ではなく、チェルノブイリ事故の時も、子供の甲状腺ガンが異常に多くなったため、子供への放射性ヨウ素の蓄積は大きなリスクになるということは確かである。しかし、本当に年間20ミリシーベルトが高いのかどうかは、科学的に立証する方法がない。あくまでも、「子供はリスクが高い」というところからの推測でしかない。もちろん、そのリスクがある限り、予防的な措置はとられるべきである。
子供にとって、年間20ミリシーベルトという数値は、基本的には高いと考えるべきである。多分、それをはっきり見て取れるのは、原発で働く作業員の平時の許容被曝線量が年間18ミリシーベルトであるということから推察してもわかるだろう。原発で働く人であっても年間18ミリシーベルトなのに、子供に年間20ミリシーベルトとは!と驚く数字かもしれない。しかし、これは放射線とは何か、ということの基本を理解したうえで議論しなければいけないものである。

まず、原発で働く作業員がなぜ年間18ミリシーベルトなのか、というと、彼らは長い期間(十年~数十年単位)原発に関わる仕事をする=放射線被曝の恐れが常にある仕事をする、という前提がある。そのため、一年間では18ミリシーベルトであっても、十年、二十年と仕事を続けていけば、当然のことながら累積被曝線量は増えていく。そうなると、低被曝線量であっても人体に影響の出るレベルになっていく。「年間18ミリシーベルト」とはいっても、一年経ったらリセットされるわけではない。そのため、一年で18ミリシーベルト、二年で36ミリシーベルト・・・と加算されていく。

放射線は細胞を突然変異させるリスクがあり、低線量の被曝であっても、細胞が突然変異して悪性腫瘍(ないしは癌や白血病)になる可能性がある。特に、細胞分裂の活発な子供はそうした突然変異が生まれる確率が高くなる。そのため、大人であっても、年間18ミリシーベルトを何年も浴び続ければ、その分、細胞が突然変異する可能性が高くなる。

では、子供が「年間20ミリシーベルト」の被曝をするとどうなるのか、ということだが、これは実は原発事故がどの程度続くか、ということによって変わってくる。現状では、放射線量が高い(年間換算して20ミリシーベルトくらい)場所が「ホットスポット」として話題になっているが、原発事故が続く限り、福島県内や茨城、千葉県の放射線量の高い地域には継続的に放射性物質が飛来する可能性があり、その意味では、継続的に被曝が続き、それによって細胞の突然変異が起こる確率が高くなる。

つまり、原発事故が早期に収束すれば、今後、福島第一原発周辺の避難指定区域や計画的避難区域以外の福島県内や茨城、千葉県の線量の高い場所でも、土壌の改良などによって蓄積された放射性物質を除去することで、それほど問題にはならない。

しかし、原発事故が収束せず、今後長期にわたって放射性物質が放出されるような状況が継続するようであれば、現時点で土壌改良をしたところで、また新たに放射性物質が降り、土壌に蓄積されるようなことになれば、それはリスクを高めることになる。原発作業員のように、長期にわたって低線量の被曝をすることを前提として考えなければならなくなる。そうなると「年間20ミリシーベルト」はかなり高い数値に思える。特に、原発作業員は大人であり、細胞分裂が不活発な人であることを前提にすると、子供が数年にわたって被曝するという前提に立てば、「年間20ミリシーベルト」は高いのである。

文科省が「年間1ミリシーベルトを目指す」といい、一回限りの土壌改良作業をするくらいでは、現時点では必ずしも効果的とはいえない。原発事故はまだ解決していないのである。これから考えなければいけないのは、果たしてこの原発事故がどのくらい続くのか、そして収束した後もどの程度放射性物質が残るのか、そしてその核種(放射性ヨウ素やセシウムなど)が何であり、その半減期(放射能が半分になる期間。放射性ヨウ素は8日間なので、80日たてばほとんど存在しなくなる)がどの程度になるか、ということである。

ただ、原発事故が続く限り、放射性物質がガンガン降ってくるというわけでもない。というのも、現在、福島県内や茨城、千葉県内で見られる放射性物質のほとんどは、福島第一原発の1、3、4号機の水素爆発によって巻き上げられたものが多く、そうした爆発による放射性物質の飛散ということは今のところ想定されていないからである。福島第一原発の格納容器は「メルトスルー」の可能性、つまり、溶けた核燃料が格納容器を突き破っている可能性も出てきているので、放射性物質は外部に漏れ続けているが、それが広範囲に拡散することになるかどうかは定かではなく、さまざまな気象条件や、今後の事故の展開によっても変わりうる。現時点では、悪いながらも安定した状態にあるので、すぐに大量の放射性物質が飛び散るとは考えにくい。

また、既に書いたように、年間20ミリシーベルトといっても、子供にどのような影響が及ぶのかについては、正確な科学的知見がない。なので、確実なことは、年間20ミリシーベルトも数年被曝することになれば、リスクが高まることだけであり、それが必ずがんや白血病につながるとは限らない。あくまでも確率論的なものでしかない。

ただ、はっきりしていることは一つある。それは文科省が「年間1ミリシーベルトを目指す」といってもそれを実現することは困難であり、原発事故が続く限り、リスクは常に高まっているということである(といっても急激に高まるわけではなく、ダラダラ高まっていくのだが)。また、「年間20ミリシーベルトまで許容する」という評価をした文科省は、事故が継続していることを前提にせず、単にICRPが認めているからという安易な理由で判断していた、ということである。

0 件のコメント:

コメントを投稿