2012年10月23日火曜日

October Surpriseの失敗?

アメリカ大統領選も佳境に入ってきたが、オバマ、ロムニーとも支持率が拮抗しており、かなりの接戦が繰り広げられている。

現在(10月22日時点)で、オバマがほぼ押さえている選挙人の数は230人余り、ロムニーは208人という状況で、オバマが有利である(270人の選挙人を獲得すれば当選)。まだどちらに転ぶかわからないフロリダ、オハイオ州などでの選挙戦は壮絶な状況になっている。

今年の大統領選は、連邦最高裁の判決により、これまで制限が多かった政治活動団体(PAC)が中心ではなく、Super PACと呼ばれる、それぞれの陣営を応援する団体がフル稼働している。このSuper PACは気の遠くなるような巨額の資金を集め、それを選挙活動、特にテレビCMの資金に大量投入されている。たぶんフロリダ州の人たちはニュースでオバマ、ロムニーの顔を見るだけでなく、コマーシャルの時間まで彼らの顔を見なければいけないので、相当うんざりしているように思う。

さて、こうした激しい選挙戦を繰り広げている両陣営だが、大統領選の行方を占う大統領討論会も今日(22日)で三回目を迎え、これを最後に候補者は11月6日の投票日に向かって最後の追い込みに入る。

しばしばアメリカ大統領選の最終版には"October Surprise"と呼ばれる、大統領選に影響のある出来事が起きると言われている。1972年の選挙では、先日亡くなったジョージ・マクガバン候補と争っていたニクソン大統領は、10月にキッシンジャー安全保障担当補佐官が「平和はわが手にある」といってベトナム戦争の終結を訴え、選挙戦に影響を与えた。また、1980年のレーガン・カーターの選挙では、当時イラン・イスラム革命の影響でアメリカ大使館が占拠され、大使館員が人質になっていたが、カーターはイランに戦争を仕掛けるとワシントンポストが報じたことが"October Surprise"となった(結果としては戦争をせず、レーガンの大統領就任式の直後に人質解放)。

このような歴史があるなかで、今年の選挙の"October Surprise"になるかもしれない記事が10月21日付のNew York Timesに掲載された。それはU.S. Officials Say Iran Has Agreed to Nuclear Talksという記事で、アメリカがイランと核開発に関する協議を1対1で行うという話を匿名の政府高官がリークしたという話であった。これは外交・安保をテーマとする第三回大統領討論会の直前に流すニュースとしては非常に大きな意味があり、イランの核開発問題に対してオバマ政権が成果を上げたことになるため、ロムニー陣営は大きく動揺した。

しかし、本日(22日)の紙面では、U.S. and Iran Deny Plan for Nuclear Talksという記事を出し、アメリカ、イラン両政府とも、この協議に対する合意はないと否定している。

ウェブで読むと違いがわかりにくいが、紙面で読むと興味深い。21日の記事が一面右肩(重要記事が掲載される場所)にあり、誰もが目をやる場所に書かれているが、22日の記事は国際面の中に埋もれていて、気がつかなければ見過ごす記事になっている。

果たして、この21日の記事は"October Surprise"になりえただろうか?私はやや疑問を持っている。21日は日曜日であり、日本同様、アメリカでも日曜日に政治討論番組などがあるが、そこではほとんどこの記事が取り上げられなかった。それは、外交安全保障問題が、今の選挙戦にさして大きな影響を与える議題ではないこと、そして外交安全保障問題の中でも、アメリカが派兵しているアフガニスタンや、先月大使以下4人のアメリカの外交官が殺されたリビアの問題などは関心があるが、イランの核開発については、国民的な関心が十分にない、ということもあるだろう。

なので、もしNew York TimesがOctober Surpriseを狙って21日の記事を出したとしたら、ちょっと失敗したと言わざるを得ないだろう。選挙戦が拮抗している中で、民主党支持の立場を取ることが多いNew York Timesとしてはオバマ政権に得点を与えようとしたのかもしれないが、それは私が見る限り、失敗に終わったと言わざるを得ない。

とはいえ、オバマ政権はOctober Surpriseに頼らなくても、外交・安保問題ではそれなりの成果を挙げており、特にオサマ・ビン・ラディン殺害はアメリカ国民に「強く、能力のある大統領」というイメージを作ったと考えている。その後、ビン・ラディン殺害にかかわった海軍の特殊部隊(SEALS)の隊員がオバマ大統領を批判する発言などを発表し、普段、秘密のベールに覆われた部隊の隊員が最高司令官を批判したということで話題にはなったが、選挙戦に大きなインパクトを与えたわけではなく、この話はいつの間にか消えてしまった。

本日の夜には第三回目の大統領討論会が行われるが、オバマがここで自らの実績を前面に出して勝負をつけるか、それともロムニーがリビアの大使館員殺害事件などを材料にオバマを攻撃し、その信憑性を落とすことができるか、という勝負になるだろう。その勝負の行方が大統領選を決定づけるとは思わないが、第一回討論会でロムニーが作った流れを副大統領討論会、第二回討論会でオバマが食い止めた、という流れの中で、再びロムニーが勢いを取り戻せるか、それともオバマが押し返せるか、という流れを作る分岐点になるとは言えるだろう。

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